
精神医学の歴史
精神疾患に関する治療や支援が科学的根拠に基づいて実施されるようになったのはごく最近のことです。
精神医学における革命
1700年代はまだ精神疾患の患者に対する有効な治療や支援の方法が確立されておらず、症状の正確な理解もされていなかったため、精神疾患患者は鎖でつないで行動の自由を奪うという非人道的な対応が実施されていました。
第一の革命
フランスのフィリップ・ピネルは病院の制度を改革して適切な治療・支援を開始し、精神疾患患者を鎖から解放しました。
そのためピネルは近代精神医学の創始者といわれています。
第二の革命
1900年代初頭、ジークムント・フロイトによる精神分析の創始とそれを応用した精神分析療法が確立されました。
精神疾患患者と精神科医が対話形式で話をする・話を聞くという現在の心理カウンセリングの基本的なスタイルが確立されました。
1940年代にカール・ロジャーズにより来談者中心療法が創始されました。
これは精神疾患者の現在と意識へアプローチする手法で、現在でも心理カウンセリングの現場で実施され、心理カウンセリングの基礎となっています。
第三の革命
1960年代後半に精神科医や心理カウンセラーが地域社会に介入して、精神疾患の支援・予防を実践するというコミュニティ心理学が確立されました。
精神疾患の分類と検査の確立
スイスのオイゲン・ブロイラーとクルト・シュナイダーは統合失調症の複雑な精神疾患症状を体系化し、診断基準を提唱しました。
また、クルト・シュナイダーは精神病質(現在のパーソナリティ障害)を10の類型に分類しました。
ブロイラーの弟子であるユングは、ブロイラーの紹介でフロイトと交流を持つようになり、後の精神分析療法の発展につながっていきました。
ドイツのエミール・クレペリンは当時明確に区別されていなかった双極性障害の分類を確立しました。
クレペリンは人間が行う作業と心理状態に関する研究を行い、クレペリン精神作業検査を考案しました。
この検査を発展改良したものが内田・クレペリン精神作業検査で、現在カウンセリングでも利用されています。
まとめ
人名 | 主な功績 |
---|---|
フィリップ・ピネル | 近代精神医学の創始者 |
ジークムント・フロイト | 精神分析療法 |
カール・ロジャーズ | 来談者中心療法 |
オイゲン・ブロイラー クルト・シュナイダー | 統合失調症の診断基準を提唱 |
クルト・シュナイダー | 精神病質(現在のパーソナリティ障害) を10型に分類した |
エミール・クレペリン | 双極性障害の分類。 クレペリン精神作業検査 |
精神疾患療法・手法の歴史
年代 | 療法 |
---|---|
1900~現在 | 精神分析療法 |
1930~1970 | 精神外科 |
1950半ば~現在 | 薬物療法 |
1990~現在 | 認知行動療法 |
DSMの役割
精神疾患の診断は、1900年代初頭までは精神科医によって診断が異なるといったケースが多くありました。
そこで、精神疾患に関する科学的で客観的な指標に基づいた診断マニュアルが作成されました。
それが「精神疾患の診断・統計マニュアル」(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)であり、DSMといわれています。
現在もっとも新しいものがDSM-5とよばれるもので2014年に日本語版として出版されています。
DSM-5は日本語版が出版される際に、次のようなことが改善されています。
①疾患名・用語はより分かりやすいもの、患者の理解と納得が得られやすいものにすること。
②疾患名が与える印象による差別や偏見、誤った認識をなるべく少なくすること。
また全般にわたって「障害」という言葉のかわりに「症」という言葉に変更されています。
出版年 | |
---|---|
1952年 | DSM-1 |
1968年 | DSM-2 |
1980年 | DSM-3 |
1994年 | DSM-4 |
2013年 | DSM-5 |
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